雇用・委任・請負の違いをアニメで考える話

以前の記事で、雇用・委任・請負の違いについて制度的な説明をしましたが、今回はその補足として、より実感を持てる話をしたいと思います。制度としての整理はできていても、実際は「これってどの契約?」と迷うことが多々あります。その実情について考えてみましょう。

試験にも出るくらい重要なテーマ

雇用・委任・請負の違いは、法学部や法科大学院の試験にも出るくらい基本的なテーマです。しかし、専門的に学んでいても「うーん、これはどっちなんだ?」と悩むことがあるほど、現実の契約形態は単純ではありません。

特に問題になるのは「雇用」と「委任・請負」の違いです。委任と請負は「成果物の完成を約束しているかどうか」で区別されるので比較的明確ですが、雇用は別枠として扱われることが多いです。

指示がある=雇用とは限らない

実際のところ、発注者から指示が出るのは雇用でも請負でも同じです。請負の場合、成果物の完成が目的なので、「こういうものを作ってほしい」という指示は当然あります。問題は、その指示が「指揮監督命令」にあたるかどうかです。

講学上は「指揮監督命令のもとにあるかどうか」で雇用と請負を区別するとされていますが、実際にはケースバイケース。
成果物の完成を求めるのは当然としても、その要求がどの程度なのかによって、契約形態の解釈が変わることもあります。

アニメの世界で考えてみる

この契約の違いを考えるうえで、アニメ作品を例にすると面白いことが分かります。

1. 魔法少女まどか☆マギカ

「僕と契約して魔法少女になってよ」──この契約は、雇用・委任・請負のどれに当たるのでしょうか?

  • キュゥべえが指揮監督しているわけではないので「雇用」ではない。(ただし、魔女のことは教えてくる)
  • しかし、「魔女を倒せ」と成果物を要求されているわけでもないので「請負」とも言えなさそう。
  • 魔女を倒さないとソウルジェムが濁るという仕組み上、自発的に倒しているだけ。

そう考えると、「魔法少女になる契約」は「委任」(業務委託)に近いのかもしれません。

もっとも、別論ですが、こいつの契約は訪問販売における不利益事実の不告知など、消費者契約法にひっかかる可能性はありますが…。(QBを許すな。)

2. リコリス・リコイル

この作品のリコリスたちは、普段は喫茶店で働いて、時々?ミッションが始まるという生活をしています。

  • 喫茶店での稼働は、普通は「雇用」とみれる。
  • ミッション中は指揮命令系統のもとにあるようで、ある程度の自由もある。
  • 成果報酬的な要素があり、「委任」よりは「請負」にも見える。
  • 「請負」だとすると、喫茶店稼働が完全な趣味に…(成果物はあくまでミッション)

そもそも、彼女たちが契約の主体になれるのか(人権が保障されているのか)という点は、また別の論点を生みそうなので一旦忘れましょう。

3. ウマ娘 プリティーダービー

ウマ娘たちはトレセン学園に所属しながらレースに出場します。これの契約形態を考えてみましょう。
基本的にはプロスポーツと同じような扱いになりそうですが。

  • 学園に所属している=雇用?
  • でも、学園側からレースに出なさいといった、指示はない。(ただし、授業出席や寮の門限はありそう)
  • どのレースに出るかもある程度の自由がある。
  • ただし、レースの成績が振るわないと「退学」があり得る。
  • 学園側に提出する「成果物」に相当するものが今のところ見当たらない。

こうしてみると、雇用と捉える「指揮命令」については、授業出席や寮の門限、校則が該当しそうに思います。
とはいえ、一般的なプロスポーツ選手であっても、チームミーティングへの出席義務や、寮の門限、チームの規律などある程度の組織規範に従うことが前提ではあります。なので、これらを雇用を基礎づける「指揮命令」というにはちょっと弱いかもしれませんね。

なので、一般的なスポーツ選手と同様に「委任」(業務委託)と考えるのが妥当かもしれません。

実際の契約は「書いてあること」より「実態」が重要

ここで注意してほしいのは、「契約書に何と書いてあるか」より「実際にどう運用されているか」が重要だという点です。

  • 「雇用契約書」と書いてあっても、実態が請負なら請負。
  • 「請負契約書」と書いてあっても、実態が雇用なら雇用。

実際の現場では、「契約書に請負と書いてあるから請負だよね」と簡単に割り切れるものではありません。
さっきのウマ娘なんて、入学願書と入学許可証でしょうから。

そのため、契約を結ぶ際には実態を踏まえて慎重に判断することが大切です。

まとめ

雇用・委任・請負の違いは、制度としては整理されているものの、現実にはグレーなケースが多く、契約書の文言だけでは判断できないこともあります。

アニメの例を見ても、どの契約に当たるのかはっきりしないものが多いように、実際のビジネスの現場でも契約形態を見極めるのは簡単ではありません。だからこそ、「書面よりも実態を見る」という視点が重要になってくるのです。

契約を結ぶ際には、制度的な整理だけでなく、実務的な視点も持って判断していきましょう。

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