はじめに
建設業法を読んでみようシリーズです。
今回は定義規定なので、ちょっと長くなります。
相変わらず、これを読めたから許可がとれる、というものではないですが、ちょっとしたコミュニケーションの足しと読み物にしてもらえたらなと思います。
条文を見る
今回は第二条を読んでみましょう。
(定義)
第二条この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。
2この法律において「建設業」とは、元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう。
3この法律において「建設業者」とは、第三条第一項の許可を受けて建設業を営む者をいう。
4この法律において「下請契約」とは、建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者と他の建設業を営む者との間で当該建設工事の全部又は一部について締結される請負契約をいう。
5この法律において「発注者」とは、建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者をいい、「元請負人」とは、下請契約における注文者で建設業者であるものをいい、「下請負人」とは、下請契約における請負人をいう。
この手の条文は「定義規定」と呼ばれます。
建設業法上の文言についての意味を定義します。
その他、役所の方や僕たち行政書士が同業同士の会話で使う場合もこの定義を基準に考えます。
事業者さん自身が、自身で役所に相談した際に、話しが難しくなる原因がこれです。
とはいえ、ほんわりしていたり、人によって解釈が異なるととんでもないコミュニケーションエラーから事故が起こりますので、必要な規定ではあるのです。
第一項
この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。
建設工事とはなにかを定義する条文です。
いきなり≪別表≫なるものが出てきました。
こちらがその切り抜きになります。
その数実に29業種。結構多いです。
具体的な工事事例は長くなるので今回は避けますが、要はこれのどれかに当たる「土木建築に関する工事」が建設工事となります。
逆に、犬小屋を建てるだとか、土を運ぶだけという作業は、工事の一端にかかっていますが、これらの中に該当するものがないため、建設工事には当たりません。
第二項
2この法律において「建設業」とは、元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう。
第二項は建設業の定義です。
この条文でいきなりさっきの「建設工事」の文言が出てきましたね。
「建設工事の完成を請け負う」とあるので、先の29業種の完成を請け負う営業を建設業と呼びます。
尚、この「請け負う」ですが契約上の実質的な状態を参考にします。
参考として、民法上の請負契約の条文を引用すると
(請負)
第六百三十二条請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
とあります。ポイントは①仕事の完成と②それに対する報酬の支払いです。
契約書の名目が委任などその他の契約形態となっていても、実質的に上の請負になっている場合は、建設業ということになります。
第三項
3この法律において「建設業者」とは、第三条第一項の許可を受けて建設業を営む者をいう。
第三項は建設業者の定義です。
第三条第一項と見慣れない条文を指してますが、これは建設業の許可です。
また、ここにいう建設業も第二項の建設業がそのまま来ます。パズルみたいになってきました。
直球で言えば、建設業の許可を受けている建設業を営むものを建設業者と呼びます。
では、建設業の許可を受けていないけれども、建設業を営んでいる人はどのように呼ぶかといいますと、本条の後ろの方にある「建設業を営む者」をそのまま使います。
少しいいかえると、「建設業を営む者」のうち、建設業の許可を受けている者を建設業者と呼びます。
なので、条文などで「建設業を営む者」という表現が出た場合、建設業の許可を受けている人も受けていない人も一括て対象となります。
第四項
4この法律において「下請契約」とは、建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者と他の建設業を営む者との間で当該建設工事の全部又は一部について締結される請負契約をいう。
第四項、下請け契約の定義です。
さっそく出ました「建設業を営む者」
先の説明通り、これは建設業の許可の有無に関係なく、建設工事をする人という意味合いです。
建設業を営む者同士の(当事者以外の者から請け負った)建設工事についての請負契約を下請け契約と呼ぶとあります。この下請け契約は次の第五項でもつかいます。
この条文の注意点として、当該建設工事の全部という表現がなされていますが、建設業法は「一括請負」を禁止しています。
あくまで、工事全体における土木工事部分等、特定の業種部分についての全部(又は一部)という意味合いですので、注意しましょう。
第五項
5この法律において「発注者」とは、建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者をいい、「元請負人」とは、下請契約における注文者で建設業者であるものをいい、「下請負人」とは、下請契約における請負人をいう。
第五項ですが、なんか一杯書いてますね。順にみていきましょう
まず「発注者」について定義されています。
建設工事の注文者のうち、他の者から請け負ったものを除くとあります。
なので、原則的には建設工事の成果物のユーザー、要は工事をしないお客さんを指します。
『元請けの〇〇建設から発注があって~』という会話がなされることがあると思いますが、この場合〇〇建設は法令文言上の発注者というくくりにはなりません。条文も細かく「下請け契約における注文者」と表記しています。
この場合、〇〇建設は条文上の「元請負人」という表現になります。元請けさんという表現の方がいいですかね。
第四項で定義された「下請け契約」を基準に、注文者と請負人という関係をもって、元請負人と下請負人を定義しています。
この、元請けさん下請けさんの話ですが、業界の慣習と大きく乖離する部分があります。それが数次下請け関係。
事例を設定してみましょう。⇒は注文です。
僕⇒〇〇建設⇒▼▼建設⇒◇◇建設
この状況において、僕は誰からも請け負っていない建設工事を注文しているので、発注者になります。また、この注文は「下請け契約」には当たりません。僕が「建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者」ではないからです。なので、僕との関係では、〇〇建設さんは、建築業者さんでしかありません。
では、〇〇建設さんから▼▼建設さんに注文が行きました。〇〇建設さんは「建設工事を他の者(僕)から請け負つた建設業を営む者」に当たるため、この契約は下請け契約です。
この当事者の関係は、〇〇建設さんが元請け、▼▼建設さんが下請けとなります。
さて、問題は次です。▼▼建設さんから◇◇建設さんへ注文が行きました。業界では2次下請けとよばれる状況ですね。
業界的には、▼▼建設さんは一次下請けとして下請けの仲間に加えられることが多いようですが、建設業法上、◇◇建設さんとの関係では元請負人という立場になります。
しっくりこないかもしれませんが、条文を具に充ててみましょう。
▼▼建設さんと◇◇建設さんの契約は第四項にいう『下請け契約』です。
そして第五項により『下請け契約』の注文者は元請負人で請負人が下請負人となるので、『下請け契約』の注文者である▼▼建設さんは元請負人という評価になります。
ここら辺がすごくややっこしいんですよね。業界的には発注者から受けた大元だけが元請負という認識がおおいようで、この事例で言うところの▼▼建設さんが『下請負人でもあり元請負人でもある』という状況が落とし込めない。
なので、役所などで『あなた、(◇◇との関係で)元請けでしょ?』って指摘されると、『は?』ってなる。
終わりに
いつもより長くなりました。
定義規定って、後々出てくる微妙な単語を全部ここで決める箇所なので、その法令でも長くなりがちではあるのですが、その定義内容が業界の慣習と少しずれると尚長くなります。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
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