今日の朝、SNSを見てるとこんな記事を見つけました。
「農地を孫に相続させたい」夢を託した遺言書、専門家に依頼したのに大トラブル…行政書士が明かす注意点
記事において、遺言書を頼むべき専門家について言及されているので、この点について少し考えてみたいと思います。
遺言書が相談できる専門家
遺言書作成が相談できる専門家は下記の通りです。
・弁護士
・行政書士
・司法書士
・税理士
それぞれの士業について特徴がありますので、順に追ってみましょう
- 弁護士に相談する場合
法律界隈のゼネラリスト。
法律上の職務として、できないことは無いといっても過言ではないでしょう。
遺言書は作るけれども、遺産を巡って争いが生じる可能性を強く感じられるなら、弁護士に相談がよいです。
- 行政書士に相談する場合
行政書士は権利義務又は事実証明に関する書類の作成について専門としています。
遺言書も権利義務関係に関する書類に当てはまりますので、作成について専門としています。
他方で、紛争が予見される場合や、不動産登記、税務処理等が必要となってくる場合には、他の士業さんと連携を要することがあり、その点が報酬額などに加算される場合もあります。
- 司法書士に相談する場合
遺産に不動産が含まれる場合にのみ相談することができます。
特に相続された不動産は、その後に相続登記を行うことが義務化されましたので、遺産に不動産が含まれる場合は相談されるのが良いと思います。
- 税理士に相談する場合
相続において、相続税が関係する場合には、税理士も相談作成することができます。
もっとも、相続と税についての関心事は死後の処理よりも、生前の贈与に関わる部分ではないでしょうか。
生前の贈与と死後の相続と税制上どちらが良いかを相談するのは、税理士です。
記事事例について考える
記事の事例における一番の論点は、農地の相続でした。
おそらく農地他財産の都合上、相続税が発生する規模だったのでしょう。
ですので、相談者さんが初動として税理士に相談したことは間違いではありません。
ところが、その相続財産が「農地」であったため、別の手続きを念頭に置かなければいけない相続でしたが、その点を失念していたのか、通常の土地の様に取扱い、遺言書に表してしまったのが問題です。
記事内でも指摘されていますが、農地の権利移転には制限があります。
(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)
第三条 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第五条第一項本文に規定する場合は、この限りでない。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC0000000229
※通常の相続(包括承継)であれば、本条の適用はありません。
農地の移転などに関する業務は、主として行政書士が取り扱っていますので、当の税理士の先生にはなじみがなく見落としてしまったのかもしれません。
記事事例から学ぶ
相続・遺言書と聞くと、亡くなられた方からの財産の移動に焦点があたります。
ところが、今回の事例からもわかる通り、財産の移転だけでは終わらないことが発生します。
例えば、事業をされている方で自己株会社をお持ちであれば、株式の移転やそれに伴う会社支配権の移動も考える必要が生じます。
親子で建設会社を営まれているのであれば、建設業の許可について、子世代になっても継続が可能かを検討する必要もあるでしょう。
自分の相続なんて、一生に一度しかありませんから、準備として何が必要なのかは専門家に相談することをお勧めします。
専門家の選び方
記事内で松尾先生が言及されていますが、異なる士業間において、どのように選ぶべきかを僕なりに補足します。
①~⑤の順番で優先度が高いです。
①相続財産を巡って、家族間で争いが生じそうか。
相談先:弁護士
争いごとは弁護士が専門になりますので、弁護士に相談しましょう。
②自身が事業、特に許認可に関連する事業を行っている。
相談先:行政書士
記事のパターンです。事業の引継ぎ・廃業などで必要な手続きがあるかもしれません。
なお、許認可を取得されている場合、取得に関与した行政書士に相談されるとおもいます。
この場合、許認可を請負った行政書士は遺言書などは専門で扱っていないことがあります。
その際は、紹介をお願いしましょう。
③相続財産が高額で、家族間に問題はないが、税金に関しての心配事がある。
相談先:税理士
主に生前の贈与も関連しての相談になると思います。
④不動産を保有していて、相続後の登記が心配。
相談先:司法書士
相続後の登記に向けた相談が主となるのであれば、司法書士へ。
⑤以上には当てはまらない。
相談先:弁護士・行政書士
③④に当てはまらない場合、税理士・司法書士は相談を受けれません。
そのうえで、弁護士と行政書士のどちらを選ぶかは費用対効果によると思います。
弁護士は「代理権」を有していますので、万が一争いになってもそのまま解決できます。
逆に、行政書士は書面作成のみですので、作成後の事後的な争いには介入できません。
そのため、費用については弁護士の方がやや高めに設定されています。
ご自身の遺産と相談の上、どちらかを選んでいただくのがベストだと僕は考えます。
おわりに
状況によって、相談すべき専門家が異なるのは解ったが、自分の状況が判りにくい。
と、いう場合は、まずは一番身近な専門家に相談してみてください。
人生で一度きりの自分の相続ですから、自分の状況を正しく理解できている人はそうはいません。
ニュース記事の事例は、おそらくそこまで起こることでもないと思います。
士業って、横のつながりを大事にしている方が多いので、記事のように珍しいものが来たら一度調べるなり相談するなりを普通はしています。
なんなら、相続税の相談をしたいから税理士の先生を紹介してほしいと、行政書士の先生に話をしてもきっとよろこばれます。少なくとも、僕は喜びます。
自分がいなくなった後のことを、正しく考えるために、一度専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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