選択的夫婦別姓を考える

時事ネタです。自民党の総裁選が近くなってきたので、いろいろ政治的論点が注目されるの中になっています。
その中で、選択的夫婦別姓についてお話が出ているので、ちょっと個人的な意見を述べたいなというふうに思います。

目次

選択的夫婦別姓とは

選択的夫婦別姓ってなんなのっていうところから話を整理しておきます。
現在、婚姻届を提出する際、要するに結婚した場合には、男女どちらかの姓を名乗るというのが民法上のルールです。(750条)で形式的にはどちらの性を名乗っても差し支えはないんですけれども、ただ日本の風土上、風習上の問題で、男性の性を名乗るケースになってるようですね。
でこれがやっぱり男女平等という意味合いではどうなのかという意見があります。
ただ、全員がですね。別姓にするとそれはそれで問題になるので、両方夫婦が両方の姓を選べる状態を残しつつ、それぞれの姓を名乗ることも認めましょうと言う論調が選択的夫婦別姓ですね。
因みに、法務局の世論調査はこちらです。

法務局では、「従来の姓制度を維持したうえで、旧姓の通名使用を認める法制度」も検討しているとしていますね。
今回の話は、これは一旦おいておいて、そもそも従来の姓制度(ひいては戸籍制度)を改変することについて検討したいと思います。

婚姻と戸籍制度

選択的夫婦別姓は当然ながら婚姻に関わる話です。
で、日本の法令上婚姻は戸籍制度とかなり深い関係にあります。

第十六条 
 ①婚姻の届出があつたときは、夫婦について新戸籍を編製する。但し、夫婦が、夫の氏を称する場合に夫、妻の氏を称する場合に妻が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。
 ②前項但書の場合には、夫の氏を称する妻は、夫の戸籍に入り、妻の氏を称する夫は、妻の戸籍に入る。
 ③日本人と外国人との婚姻の届出があつたときは、その日本人について新戸籍を編製する。ただし、その者が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。

世間では婚姻届けを出しただけで終わりますが、その裏で行政手続きとしては(必要があれば)戸籍を新しく創設し、そこに配偶者を組み込む作業が行われています。
一般的に、婚姻の事を「入籍」と呼ぶのもこのためです。

婚姻に関わる基礎知識として、少し覚えておいてください。

個人的な意見

行政書士の先生ではなくて、僕個人一個人の感情としてだけのべるのであれば、別に選択的であるんだから、要するに僕たち自身の権利が縮小したわけではなくて、むしろ選ぶ選択肢が増えるわけなんだから選択的夫婦別姓っていうのは認めてもいいんじゃないのが僕自身の感覚です。
ただ、これは少し誤解してほしくないのが、今の制度が男女不平等だとは思ってないです。
制度的には男女どちらも選べる以上、法学上は平等公平の範疇でしょう。

職業人としての意見

ここからは行政書士の先生、一人の専門家としての意見を述べるんですけれども、残念ながら現状の制度的に選択的夫婦別姓っていうのは厳しいんじゃないかなというふうに思っています。
選択的を外して夫婦別姓というのがそもそも厳しいだろうねと思っています。

厳しい理由:戸籍制度との兼ね合い

なんで夫婦別姓が厳しいのかという話なんですけれども、端的に言うと戸籍の記載をどうするのかっていうところが全然議論されてないように思います。単純に別姓を名乗れるという事ばかりが先行していて、戸籍上どういう記載になってくるのっていうのが全然わからないままになってるんですよ。
先の引用通り、現在の戸籍制度上、どちらの姓を名乗っているかに連動して、どちらの戸籍に入っているかというところも実は決まってるんですね。男性の姓を名乗った場合は、男性の戸籍の方に入ってきますし、逆ならば当然逆です。

また、戸籍の氏と称する氏は一致することが原則となります。

第十八条
 ①父母の氏を称する子は、父母の戸籍に入る。
 ②前項の場合を除く外、父の氏を称する子は、父の戸籍に入り、母の氏を称する子は、母の戸籍に入る。
 ③養子は、養親の戸籍に入る。



戸籍制度なんて個人の権利の前にどうでもいいじゃないかと思われるかもしれないんですけれども、この戸籍制度って、実は個人の権利上めちゃくちゃ重要な意味を持つことがあります。

それが相続です。

相続実務:相続人調査

相続をする場合にポイントとなるのは、「いくら相続するのか」と、「誰が相続するのか」です。
で、誰が相続するのかというところは法律で順位が決まってます。
子供がいる場合は子供が一番。いない場合は親、その次に兄弟姉妹。
配偶者は常に相続人という具合です。

なので、亡くなった人がどうゆう家族構成だったのかは非常に重要な意味を持ちます。そして、それを調査するために真っ先に始めるのは、その亡くなった人の戸籍の取り寄せです。
この戸籍を見たときに、この人は結婚をしていたのか、子供がいたのかどうか、養子縁組とかされてるか等が判るようになっています。
実際、ここで子供さんがいらっしゃるかどうかっていうのは、戸籍に乗ってるからわかるところであって、これから夫婦別姓の議論が進んで行った時に、子供や配偶者の戸籍をどう扱うんだろうかがちょっとわからないんですよね。

疑問点:具体例で考える

具体例で考えてみましょう。ある男性がなくなりました。では、男性の家族関係を確認するために男性の戸籍を取ったときに、現在であれば配偶者及び子の記載のあるなしで、次の話に進めます。いない場合は両親がご存命か…というぐあいに段々に進めていきます。
しかし、現状の戸籍ルールだと、夫婦別姓を進めた時に別姓だから戸籍は別だっていう風取り扱いになっちゃってたとしたら、果たしてその例えば男性が亡くなった時に、どうやって配偶者やお子さんがいるかっていうのを調べればいいんだろうな。っていうのが正直な疑問です。

システム上の解決

とはいえ、システマティックな部分ではあるので、システム自体を改修すればいいじゃないかというのはごもっともなお話ではあります。
ただ日本の行政上、この手のシステムを改修するとなると、ものすごく時間がかかるだとかなんか抜け落ちたりしてるっていうパターンがかなり想像できちゃうんですよね。現状の電子申請周りも結構やんやしてますし、戸籍関係でも広域交付制度始まったときにシステムがダメになった都市があったとか聞きますし。

当然ながら人がなくなり相続が始まるタイミングなんてものは選べないので、この移行してごたついてる間に亡くなりましたって相続必要ですってケースもあるので、やっぱりなかなか気が進まない部分があるんですよね。

システム構築が難ありとしても、解決案がまったくないわけでもないんですよ。思い付きレベルですけど。

ただ、前提として先に紹介した18条含めて戸籍法の大型改正が必要になります。


例えば、戸籍の形はそのままに、それぞれ苗字を記載する方法なんかが考えられます。
今の戸籍は筆頭者は苗字と名前が記載されていて、その横の枠に配偶者さんやお子さんがお名前だけが記載されているっていう形になってるんですけれども、このお名前のみを記載している箇所を苗字ことを記載する運用に変えるということです。

ただ、一口にそう言っても、じゃあ日本人全部の戸籍をそういう運用に代えるとなった時のシステム更新のコストがdの程度かかるんだという話。コストの前に権利が沈むってのも本当は良くないのですが、今の日本の財務状況的にそれは優先度が高い話だろうかという政治的な前後の議論は生じると思います。
また、実際に別姓を選んだ時のみそういう記載になるんだという対応も一つのあり方ではあるんですけど。それはそれで同姓者と別姓者で異なる取り扱いだなんだで揉める人もいそう…。
それはそれとして実際、その選び方の届け方や記載の方法が余すことなくちゃんとできるのかという事実的な行政手続きとしてのオペレーティングの問題も決して無視してはいけないと思うのですね。。

別の解決ですが、夫婦別姓だからという理由で別の戸籍が作られるパターンも考えられますが、これはこれで結構辛いですね。
戸籍を分けた場合でも、付記の欄(どういう来歴できてるかっていう情報を記載する欄、現状は養子縁組なんかはそこに書かれる)に、配偶者〇〇と書いてしまえばとも思います。
でもそうなると戸籍二重でとらなきゃだめなんで費用自体はかかりますよね。さっきの男性の例だと、男性の戸籍とった後に、配偶者の戸籍を取り寄せる必要が出てくる。しかも、同姓同名もあり得るので、役所の管理コストだとか、この人とこの人が本当に夫婦なのかっていうところの証明事項がちょっとだけ難易度が上がるのでは、正直な感想予想です。

また、夫婦別戸籍の場合、子供をどっちの籍に入れるのかという問題も付いてきます。
別戸籍にした場合、名称の氏と戸籍上の氏は一致するので、名乗った方の親の戸籍に入ることになります。

子供の戸籍の問題となると、やはり相続上の問題はかなりでてくるんですよ。
例えば、先の男性がなくなる前に婚姻と離婚歴があった場合に、元妻の戸籍も必ず取る必要が出てきます。
なぜなら、そこに相続人になり得る子供がいるかもしれないから。
現代の運用だと、男性の戸籍に必ず子供は乗っかってるので男性の戸籍を追うだけで子供は推知できるですけど、別戸籍となるとそうもいかない側面が。

まとめ

このように、行政書士の先生として、この選択的夫婦別姓というのを考えたときに、個人の権利自体をないがしろにしたいとか、個人の主張自体を踏み潰したいという気持ちは全く持ってないのですが、現在の実務上の制度設計運用が夫婦同姓であることを前提に動いている部分が多少なりともあるんですよね。そこが知られないままに、議論が進んでる感じがあって、ちょっと怖い。
なので、賛成しにくいよねっていうのが正直な感覚です。
実際のところ、夫婦同姓で不便だと感じられる部分はあると思うんですが、反面、相続手続きとかなった時には、やっぱり便利だったっていう部分はしっかり検討した上で、選択的とは言え、夫婦別姓というのがいいのかどうか。っていうのを検討しなきゃだめなのかなというふうに思います。

これらの点を踏まえると、先の資料にあった、現状の戸籍制度を維持しつつ、通名使用について法制度を整備するという方針が比較的落としどころというか、妥協点としていいんじゃないかなと思う次第です。

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