先日、建設業法における「建設業者」と「建設業を営む者」の違いについて解説しました。しかし、実際のところ、「そんな言葉遊びが何を意味するの?」とピンとこない方も多いのではないでしょうか。
法律では、似たような表現でも微妙な違いが重要な意味を持つことがあります。今回は、この言葉の違いが具体的にどのような影響を及ぼすのか、実務上のポイントも交えて解説していきます。

記事を書こうと思ったきっかけ
今回この記事を書こうと思った一番のきっかけは、正直あまり良い話ではありません。というのも、SNS上である建築業者さん(と言っていいのか少し迷いますが)のアカウントが、行政書士のある発言に対して反論いたという話を小耳に挟んだからです。
問題となった発言は、その行政書士さんが 「建設業許可を持っていない業者は建設業者ではない」 という趣旨のことを述べたことにあります。これに対して、建築業者さんのアカウントが「そんなことはないだろう」と反論した、という流れだったようです。
「建設業者」という言葉が指すもの
ここで、前回の記事をお読みいただいた方ならピンとくるかもしれませんが、今回の議論のポイントは 「建設業者」という言葉が何を指しているのか という点にあります。
この「建設業者」という単語は、建設業法における正式な定義で考えると 「許可を受けた業者」 を指すと考えられます。しかし、日常的な会話や文章において「建設業者」と表現される場合、その対象は必ずしも許可業者に限定されていません。むしろ、「建設業を営む者」 つまり、許可の有無を問わず建設関連の仕事をしている人全般を指すケースが多いでしょう。
このように、法律上の定義と日常的な使い方にズレがあることで、今回のような認識の違いが生じたのではないかと思われます。
言葉のズレが生むミスコミュニケーション
今回の件に関して、どちらの言い分が「正しい」「間違っている」という話ではありません。そもそも、それぞれが前提としているものが違う ために、ミスコミュニケーションが生じているだけの話です。
ただし、このような言葉のズレによる誤解は、実際の場面では思わぬトラブルにつながることもあります。認識の違いが原因で話がこじれたり、無駄な言い争いが発生したりすることもあるでしょう。
こうしたミスコミュニケーションを防ぐためには、「自分と相手が違う前提のもとで話しているかもしれない」 という視点を持つことが大切です。つまり、単に言葉の使い方が違うだけで意見が食い違っている可能性を考えれば、不毛な対立を避けることができます。
言葉の定義や前提が異なることで起こるコミュニケーションのエラーは、法律の話に限らず、日常生活でも起こり得ます。こうした認識を持っておくだけでも、不要なトラブルを回避する助けになるかもしれませんね。
行政書士と建設業者の間では対面での誤解は起こりにくい
実際のところ、行政書士と建設業を営む方々の間では、このような言葉のズレによるミスコミュニケーションは 対面ではほとんど起こらない と思っています。
その理由として、行政書士の多くは 「建設業者」という言葉の法令上の意味 と 日常会話における意味 の違いを理解しているからです。実務上、建設業を営んでいる方々との会話では、たとえ相手が許可を持っていなくても「建設業者さん」という表現を用いることが一般的です。つまり、話す相手に応じて適切な表現を選びながら、スムーズにコミュニケーションを取っているのが実態ではないでしょうか。
なぜこの話をするのか?— ミスが起こりやすい場面
では、なぜこんな話をするのかというと、実務で最もミスコミュニケーションが発生しやすいのは「行政からの通知」だから です。
ここで誤解のないように言っておくと、これは「行政の表現が悪い」という話ではありません。行政は当然ながら 法令を前提にした表現を使うべき組織 です。そのため、通知文書に「建設業者」という単語が出てきた場合、それは 法令上の「建設業者」=建設業の許可を有している者 を指すことになります。
他にも、僕たち行政書士等の専門家が、こうしたブログ等の執筆活動をする場合にも、法令上の定義に寄せる(行政と同じように立ち回る)ことになります。
法令上の定義を知っていないと読みにくいと感じるところはありつつも、この定義の部分はずれてしまうと、あらぬ疑問や、同業の士業の方に迷惑をかけることにつながるので、原則的には法令上の定義に従うようにしています。
つまり、日常的な感覚で「建設業者」という言葉を捉えていると、行政からの通知の意図を正しく理解できず、誤った解釈をしてしまう可能性があるのです。
まとめ ー 言葉のズレに気づくことの大切さ
今回の話の結論としては、「自分が使っている表現と相手の表現にズレがあると感じたら、一度立ち止まって考えてみることが大切」 という点に尽きると思います。
ミスコミュニケーションが発生したとき、「なぜこんな誤解が生じているのか?」「自分はこう理解しているのに、なぜ相手は違う表現を使っているのか?」といった視点で見直してみることが重要です。こうした意識を持つことで、不要なトラブルを防ぐことができるでしょう。
言葉の解釈の違いが原因で争いになることは、何も法律の話に限りません。普段の生活やビジネスシーンでも起こり得ることです。だからこそ、「自分が使っている言葉が相手と同じ意味で伝わっているか?」という視点を持つことが、スムーズなコミュニケーションの第一歩なのではないでしょうか。
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