はじめに
不定期更新、空想法律関係論。
僕がアニメとかを見て感じる、これって法律上どうなってんだ?を追求する記事。
作品をバカにするのではなく、みんなが知ってるあのシーンって法律上こうなるよということを知って、もっと法律を楽しく考えてほしいなというのが目的です。
今回は今年劇場公開されて大ヒットを記録した「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」より、デスティニーガンダムの所有権に関するお話し。
尚、記事の都合上、本作及び機動戦士ガンダムSEEDシリーズの重大なネタバレを含みますのでご注意ください。
因みに、タイトルも同作のある事件から頂きました。
デスティニーガンダムとは
ガンダム全く知らないよという方に向けて、主題となるデスティニーガンダムについて簡単に整理しましょう。
この機体が登場するのは、話題にしている「SEED FREEDOM」の前の話に当たる「SEED DESTINY」となります。
デスティニーガンダムとは
「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」に登場する人型機動兵器MS(モビルスーツ)。作中国家「プラント」の軍事組織「ザフト」によって開発された。本作主人公の1人であるザフト軍兵士シン・アスカの搭乗機。作中最終決戦でオーブ軍(作中国軍)と交戦し、機体の手足やほとんどの武装を破壊され、月面に墜落した。(ここでエンディングを迎える)
あれ…今回の記事に必要な部分だけ切り抜いたら、ものすごく残念な機体になってしまった…。
僕結構この機体好きなんですよ。かっこいいし、ゲームとかでも扱いやすいからよく使うし…。でも事実だけまとめたらこうなるよなぁ。
と、とにかく。本記事において覚えておいてほしい点は次の3点です
- ①MSであること(不動産ではない)
- ②ザフト軍所属機体でオーブと交戦があったこと
- ③月面に墜落した同機の所在が不明になったこと。
特に3番はファンの間でも長らく不明でした。
「DESTINY」を扱うゲームなどでは二次創作として、その後のデスティニーガンダムが描かれ、その中にはザフトに戻されたり別国の所属になったりと色々ありましたが、公式発表としては依然不明でした。
主人公機の1つとして生まれたのに、最終回で撃墜され、行方不明になるあんまりな扱いを受けたデスティニーガンダム。
そんな彼?にも転機が訪れました。そう、劇場版「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」です。
オーブの地下にあった
ここからが本題です。まずは問題の劇中シーンから(ここからFREEDOMの話になります。)
敵の罠に陥り、傷ついてしまった主人公たち。
身を寄せたオーブ(作中国家)で反攻作戦を立案するも使えるMSがなく作戦は立ち往生する。
そんな中、同席したオーブの技術者は「MSは何とかできるかもしれない」と主人公たちをオーブの地下工廠に案内する。そこにはかつての大戦で行方不明になっていたデスティニーガンダム(他2機)の姿が…
はい。問題のシーンは以上です。
劇場公開当時、このシーンはめちゃくちゃ盛り上がりました。デスティニーガンダムが復活するって事前には全く漏れてませんでしたから。劇場なので声は出せませんでしたが。
閑話休題。とりあえず問題の箇所をピックアップしてみましょう。
デスティニーガンダムの所有者は明言はされていませんが、常識で考えれば①所属軍である「ザフト」②その管理国家である「プラント」もしくは③直接の搭乗者である「シン・アスカ」でしょう。③は本当に最小でもの意味ですね。
そのデスティニーガンダムですが、先の通り月面に墜落し、無人のまま放置されていました。それをオーブという別の国家(第三者)が取得して修復改修を行ったというのが今回の経緯です。
要は【落とし物を拾ったのに、持ち主に返さずに勝手に使っていいのか】というのが今回の主題となります。
所有権の帰趨
法律におけるかなり基本的な議論ですが。
物を自由にあれこれできる権利の代表格として所有権があげられます。
とても有名な権利ですね。
所有権の性質や権利となるとそれはそれでややっこしい議論を生むのですが、今は一先ず
【オーブはいかにしてデスティニーガンダムの所有権を得たのか】(はたまた得ていないのか)
を中心に検討します。
民法と遺失物法
落とし物を拾ったら、おまわりさんに届けましょう。
幼児向け教育のテンプレですが、そもそもコレの法源はどこにあるのか。
実は民法と準用される遺失物法に落とし物(遺失物)についての規定があります。
(遺失物の拾得)
第二百四十条 遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。
第四条拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。ただし、法令の規定によりその所持が禁止されている物に該当する物件及び犯罪の犯人が占有していたと認められる物件は、速やかに、これを警察署長に提出しなければならない。
第七条警察署長は、提出を受けた物件の遺失者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、次に掲げる事項を公告しなければならない。
一物件の種類及び特徴
二物件の拾得の日時及び場所
整理して言えば、民法が定めているのは「遺失物の所有権を自己に帰属させる」ために必要な手続きで、その手続きの流れを警察に届け出⇒警察の公告としてることになります。
さて、ガンダムの話に戻りまして、当然ながらあの世界線でデスティニーガンダムを遺失物として警察に届け出たという事実はありませんし、同様に公告がなされた事実もありません。だって秘密裏に地下に入れてたし。
軍用兵器をどこの警察に届け出るんだというツッコミはありますが、日本国法に照らせばそうなるのですから、とりあえずそうゆうことにします。
端的に、オーブがこの遺失物として所有権を取得するという方法ではデスティニーガンダムを手に入れることはできません。
即時取得の可能性
では、次の検討です。
他人の動産を所有者の意志に関係なく取得できる法律として、即時取得があります。
(即時取得)
第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
条文だけ並べてもピンとこないので分解してみましょう
- ①動産を
- ②取引行為によって
- ③平穏、かつ、公然に善意無過失で
- ④動産の占有を始める
以上の点を満たせば、オーブは即時取得を主張してデスティニーガンダムを手に入れます。
早くもなんか怪しい項目がありますが、とりあえず順番に見ていきましょう。
①動産
デスティニーガンダムが同条にいう動産かを検討する必要があります。
法令上動産とは
(不動産及び動産)
第八十六条 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。
とあるので、土地及びその定着物ではないMSは間違いなく動産です。
ただし、動産の中でも「登録済の自動車」は本条文にいう動産には当たらないというのが判例です。
ここで、大きな議論が2つ。一つは軍用MSに登録があるのか。もう一つはMSは自動車と同様かです。
おそらく軍用MSも配備状況や整備状況の確認のため登録番号が振られていることは想像できます。また、この手の人型機動兵器は他作品において戦車などの「車両」として扱われることが多々あるため、それに則ればMSも自動車の仲間と言えるでしょう。つまり、「登録済み自動車」と言える筋はあるのです。
しかし、日本法では登録済みの車両であれば「ナンバープレート」の装着が必要になるところ、それがないんですよね…。本当に登録済み自動車として扱っていいんだろうか。
個人的には、そもそもの現実における「登録済自動車」が即時取得上の動産と言えない理由として、通常動産はその所有者の特定が困難であるのに対して、自動車は登録制度が充実しており、これを利用することで、本来の所有者の調査特定可能である(=無過失性が否定されやすい)点が作用していると考えます。
なので軍事機動兵器として、特定所属軍の機体として登録した場合、同様に本来の所有者(軍)が明確になるため、即時取得の動産として認めることが相当ではないと思います。
そんなこんなで、個人的見解はありますが、対立理論も立論可能ではあるためデスティニーガンダムが即時取得における動産と言えるかどうかは、ちょっと決定打に欠けるところがります。
そのうえで、結論だけ先に言ってしまえば、別の点で即時取得は認められないので、実はこの点にこだわる必要は今のところありません。
ですが、判例という基準があって、そこに未知のものがハマるかどうかを検討するのは法律を考える、特にこの手の空想法律を考えるためには、とても重要で楽しい処なので、あえて書きました。
軍用MSに登録はない。MSは車両じゃない。ナンバープレートがなくても、登録車両だからセーフ…いろいろ意見があると思うので、この点は読者の皆さんが持っておいてください。
②取引行為によって
デスティニーガンダムがオーブに来た経緯ですね。
この点について調べてみると、月面に落ちたデスティニーガンダムを回収したのはオーブ以外の別組織…らしいので、一応オーブが直接拾ったわけではなく、どこかから買い取った(取引した)とみてよさそうです。
③平穏・公然・善意・無過失
問題の項目。順番に見ていきましょう
平穏:占有にあたり暴行脅迫などの違法行為を用いていない事
まぁ、これは大丈夫だろう
公然:真正の権利者に対して占有の事実をことさら隠蔽しない事
アウト。めっちゃアウト。おもいっきり地下に隠してた。
善意:前主の占有を信じていること(前主の無権利をしらない)
アウト。どうみてもこの機体はザフト製でしかも少数生産のエース機。破損個所も自軍の報告に合致する。
無過失:前主の無権利を知らないことについて過失がないこと
アウト。さっきと同じ。肩に思いっきり軍属マークついてるよね…。
④占有を始める
これはその通り、現実に保有していたので占有は始まってる。
長くなりましたが、オーブがデスティニーガンダムの即時取得を主張しようにも、デスティニーガンダムの性質上善意性無過失性の証明が難しく、また地下に隠蔽していたことから公然性が全く満たされない(何なら僕たちにも隠された)ため、即時取得によってデスティニーは手に入れられません。
また、そのほかの手段として時効取得などが有りますが、本作は前作より2年しかたっていないので不成立で割愛。
以上から、デスティニーガンダムの所有権はいまだ上記プラントらにあると思われます。
所有権に基づく返還請求をする。
「FREEDOM」ではプラントとオーブは共同出資で世界平和監視維持機構「コンパス」を設立するなど、戦後処理協力関係にありました。
ただ、他方でプラント・ザフト軍にとっては、デスティニーガンダムはいわば自軍の次世代フラッグシップとしての象徴的役割もあります。
何と言っても主人公機。とびぬけた性能もあれば、ちょっとアレな装備も付いてます。
いくら友好関係を構築し始めたとはいえ、オーブの手元にあるのは些か業腹でしょう。
ということで、所有権に基づいて返還請求が提起されたとします。
先に散々所有権を否定される検討が成立してしまったオーブに何が言えることはあるのでしょうか。
でもこれspecⅡだし
「そもそも、この機体に使われている根幹技術の幾つかは、元々オーブの技術が前々大戦(無印時代)の折に流出したもので、しかもそっちだってうちのガンダム強奪したじゃないか」
オーブからすれば、このような政治的遺憾の意を表明したくもなりますが、ここはひとつ法律的に検討しましょう。
さて、事実をもう一度整理しましょう。
オーブがデスティニーガンダムを入手した際に、デスティニーガンダムは両手足といくつかの武装が破損していました。
爆発四散とはいかないまでも、機動兵器としては戦闘続行は不能、大破といっても差支えない状況です。
そこから①損傷部分はすべて復元したうえで、さらに追加の調整として②コックピット周りの環境を現代水準に換装し、③当時所持していなかった「他の機体にエネルギーを分け与える装置」まで登載しました。
結果、デスティニーガンダムspecⅡとして生まれ変わることになりました。
このように他人の動産に手を加えた場合にどうするのか。民法にはこんな規定があります。
(動産の付合)
第二百四十三条 所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。
法令としては多数の動産がくっついた場合の処理を規定しています。
今回の場合デスティニーガンダムの無事だった部分(動産)にオーブが提供した各種パーツ(動産)がくっついたという処理でこの条文がハマるのではないかという処理です。
とはいえ、人型機動兵器の胴体と両手足の主従って決まるもんだろうか…と思うので、この条文です
第二百四十四条 付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
というわけで、オーブは修理相応分については、此方の動産が付合したため共有であると主張することになるのです。
これはデスティニーガンダムではありません、我々が修理改修したデスティニーガンダムspecⅡですと。一部は旧機体から流用しましたが、そのほとんどは我々が再設計再建造したので、所有権の割合はオーブの方が上であると。
確かに、デスティニーガンダムの破損の仕方を考えるに、プラント・ザフトの方に残るの(オーブが主張する流用された一部)って「エンジン」ぐらいじゃないだろうか…いや、このエンジンが結構悪さをするといえば悪さをするんだけど。
とはいえ、さすがに「勝手に拾われて、修理されたと思ったら、なんか所有権がめちゃくちゃ減ったんだけど」というのは、一方にとって不利益です。そこでこの規定
(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)
第二百四十八条 第二百四十二条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第七百三条及び第七百四条の規定に従い、その償金を請求することができる。
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
結局は金で解決。
しかし、オーブが704条にいう「悪意の受益者」と呼べるのかは結構微妙かもしれません。
デスティニーガンダムを秘匿して修理したのは確かに問題がありますが、その後デスティニーガンダムは本来のパイロットであるシン・アスカが搭乗します。そしてシンの本作の立場は「ザフトより平和監視維持機構への出向」という扱い。つまり、修理してspecも上げたうえで、元々の軍属パイロットにお返ししたことになるわけですが…
他方、オーブの技術士が言うには、「新兵器の評価試験用に(デスティニーガンダムを)隠し持っていた」とのことなので、その評価試験の結果は【他人の財産によって受けた利益】と呼べるかもしれませんね。
終わりに~ガンダムのテンプレート~
結局のところ、ガンダムの所有権って奪われるのがテンプレートみたいなところはあるんですよ。
初代ガンダムですら、放置されてたガンダムにアムロがひょっこり乗り込むことから始まって、ガンダムMK=Ⅱはエゥーゴに取られたし、Zガンダムも悪ガキにちょっと取られ…。フリーダムガンダムもよくよく考えれば、ザフトから奪って、破損しながら大戦を潜り抜けたら、次の大戦ではしれっとオーブ所属になってるし。
そんなこんなで、一転二転するガンダムの所有権を正確に追いかけてみると、結構勉強になることがあるんじゃないかなと。
こんな感じで、空想世界のファンタジーをきっかけに、現実の法律ってどうなってるのって考えてみるのもいいんじゃないかと思います。
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